(いきなり寝坊しちゃった……!)
社会人1年目。最初の出勤日。
国家試験を無事通過し、ようやく入社することができた会社に真悠子は向かっていた。
今日はまさにその初日である。
急いで整えた髪の毛をなびかせながら、早足で駅に向かっていた。
真悠子の駅まで徒歩10分ほど。
乗る予定の電車まではあと13分ほどあった。
起きた時には遅刻確定と思い、青ざめたがこの分なら時間的にはギリギリだが会社には間に合うだろう。
ただ…。
真悠子には気になることがあった。いや、正確には今もある。
真悠子の身体が目覚めるにつれて、よりその欲求が高まっている。
トイレに行きたい。すごく。
朝、寝坊をしてしまったことに焦った真悠子は朝食代わりに牛乳を流し込むと、
朝のおトイレを済ませることなく、駅に向かって飛び出してしまったのだ。
歩きながら徐々に強くなるその欲求の存在に気づき、後悔をしてももう遅い。
だが、入社初日から遅刻するわけにはいかない。
とにかく電車に乗ることを第一に考えたかった。なるべく早く駅についてトイレに行けそうであれば行きたいと思っていた。
「もうちょっと頑張ってね。」
真悠子はそっと膀胱をひと撫ですると、自慢の黒髪をなびかせながら駅への道を早足で進んだ。
真悠子の努力のかいがあって、普段なら徒歩10分ぐらいかかるところを8分で駅に到着することができた。
スピードを緩めることなく、真悠子が乗る予定の電車の改札に一番近い女子トイレに向かう。
「よかった、トイレに行く時間ありそう…!お願い。空いてて…」
残された時間は約5分間。トイレからホームまでの移動を1分と考えて4分弱は時間があった。
普段の真悠子ならどんなに極限まで我慢を重ねた長いおしっこをしたとしても、余裕でおしっこを済ませて電車に乗ることができる時間だった。
急いでトイレに飛び込む真悠子。
するとすぐに視界にピンクのドアが見える。
1,2,3…個室が3つしかなかった。
そしてその全ての個室のロックが赤く閉ざされていた。
「んんっ」
仕方なく真悠子は順番を待つことにした。10秒に1度ぐらいスマホを見て時間を気にしてしまう。
絶対に遅刻をするわけにはいかないので、4分後にアラームがなるようにセットしておいた。
真悠子は今日はタイトスカートで出社している。
普段の私服と比べるとおしっこがしづらい格好ではないはずだ。
そわそわと足踏みをしながら、頭の中で計算をしていく。
「えっと。ここからホームまでの移動で1分、トイレ入って鍵かけて…座っておしっこし終わるまでに…普通なら20秒ぐらいで終わると思うんだけど…今日すごい我慢しているから…すぐにできるとは限らないし1分ぐらい見ておいたほうがいいのかな?でも後始末の時間もあるし…ええっ1分ぐらいしか待つ時間ない…」
彷徨うように視線を巡らせながら、真悠子はモジモジと身体を揺すっていた。
朝一番の用足しを逃した真悠子の膀胱はパンパンに張り詰めて、
もう我慢が長くは保たない事を直感的に告げている。
順番待ちをはじめて40秒が経過した頃。
ザーーーーーーーーーーーーー。
水が流れる音がした。一番右の個室だ。
さっと真悠子が右側の個室に寄る。1秒でも早く入りたい。
一応あと20秒以内に個室に入れれば、電車には間に合うはずだけど念のため余裕を持ちたかった。
ガラガラガラガラ。
トイレットペーパーを巻き取る音が聞こえる。
今度は真ん中の個室だ。
今か今かと待ち望む真悠子は生殺しにされている気分だ。
時間がない。早くおしっこがしたい。どっちでもいいから早く開いて!
でも個室は空きそうなのに開かない。
真ん中も右側も、身支度を整えているのかごそごそと音がしている。
本当にもう少し。もう少し。
「ピピピピピピピピピーーー。」
真悠子のスマホが鳴り出す。
先ほどセットしたアラームだ。
トイレか遅刻かー。
後ろ髪を引かれる思いを振り切り、真悠子はトイレを出てホームへ向かうのであった。
コツコツ。
無事に電車に乗れたはいいが、真悠子は明らかに他の乗客と比べると異常だった。
黒のストッキングが包む膝がそわそわとすり合わされ、伸びる足先が電車の床を打ち鳴らす。
もう我慢の仕草を隠すことができなかった。
人間として当たり前の、ただ20代前半の女性としては絶対に悟られたくない欲求を
隠すことができない状態の真悠子を乗せて電車は走って行く。
頰の熱は増すしていくばかり。
できるならこんな格好したくない。幼稚なおしっこ我慢の仕草はとりたくなんてない。
だけどもうダメだった。足踏みしてないとでちゃう。
そのぐらいギリギリのラインで真悠子は戦っていた。
膀胱は真悠子本人とは別の意思を持っているのではないかと思うぐらい、
荒れている。波を抑えることができない。
モジモジと足をすり合わせたり、膀胱をさすったりと、数秒たりともじっとしてられずに、そわそわしてしまうのが状態だった。
目前でドアが開く。真悠子はふと顔を上げる。
ここで降りちゃえば。会社は間に合わなくなっちゃうけど、おトイレは間に合う…!
思わず足を踏み出しそうになる真悠子。
「でも…今降りると…」
遅刻は確定。入社早々、社会人として恥ずかしい子という烙印を押されてしまう。
そう考えると一歩踏み出す勇気を出せない真悠子。
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
目の前でしまっていくドア。
覚悟を決めたわけではなくただ決断ができないばっかりに一歩を踏み出せず、我慢の延長戦に挑むことになってしまう。
ガタンー。電車が急発進する。
じわ…
「っっっっ!」
思わず体の前、足の付け根に手が入ってしまう。
そっとふとももに手を這わせ、人差し指と中指に力を入れてギュッと抑えてしまう。
…明らかに湿っている。
真悠子は下着の湿り気を感じ、青ざめながらも、もう手を離すことができなかった。
22歳。これから社会人のオトナの女だというのに。
おしっこをちびっている。そのことに泣きたくなる。
またも湿り気。またさっきのおちびりから10秒もたってないのに。
閉じた門のひび割れを滴り抜けたそれは、熱のこもった身体ですら鮮明に感じられる程に熱い。
あとどれだけの波が自分を襲うのか、そして自分は耐えられるのか。
もう恥も何もない。前かがみになり思い切り股間を押さえつけた。
もうこうしていないと我慢できない。社会人のプライド、そして女の子としてのプライド。
どちらも守るために真悠子は今この一瞬の恥を捨てることを決意した。
我慢の仕草を隠さないことにしたのだ。
電車が停車する。
ドアが開く。冷たい空気が入ってくると同時にまたじわり。
慌てた真悠子はまた強く股間を抑える。
もはや指先の感覚はない。
そして下着越しに抑えているというのに指先もかなり濡れてきている。
必死に抑えているうちにドアが閉まり、電車が再度発車した。
「次は、⚪︎⚪︎ー。お降りのお客様は…」
「!!!」
ようやく真悠子の会社がある駅。
頭の中が薄黄色の濁流に侵食されつつある真悠子にわずかな光が見えた。
今まで以上に強く股間を押さえつける。タイトスカートに皺ができてしまうが今はそんなことにかまっていられない。
もう我慢できない。足がガクガク震えてしまい、今にもしゃがみ込んでしまいそうな真悠子。
周りの乗客から怪訝な目で見られているがもはや気づかない。
長かった電車が減速し、停車し、ドアが開いた。
前を押さえつけたまま、脱兎のごとく電車を飛び出す真悠子。
「えっと。エレベーターは混んでる…あっエスカレーター!」
エスカレーターの方向に慌てて走っていく真悠子。
一歩前へ出る度に衝撃が足先から頭を突き抜け、下着の丸いシミがその面積を広げるだけにはとどまらず、小さな水滴が足を伝って落ちていく。
この駅には面接の時に何度も来ている。だからトイレの場所もわかっていた。
頭が真っ白になりつつも、なんとかたどり着けた女子トイレ。
最後のひと頑張りと、真悠子は女子トイレに駆け込んだ。
「っっっっっ!」
つい数十分前に見たのと同じ光景。
5つの個室全てがふさがっていた。
泣きそうになるのを必死にこらえながら、普段の真悠子なら絶対にしないが、
片っ端から個室をノックし始めた。
「お願いです!もう漏れちゃうんです!お願いします。早く出てください!」
コンコン。ドンドンドンドン。
一番左の個室で慌てたように水を流す音が聞こえる。
一番左の個室に駆け寄る。
ゴンゴン。ゴンゴンー!
「早く!お願いします。もう出ちゃうー!!」
真悠子は絶叫のような声を上げながら、ドアをノックする。
もはやおしっこはストッキングに何筋も出てきてしまっていた。
「早く…早くぅ…」
力なくドアを叩く。それが最後だった。
「あああぁ…」
視界がチカチカし個室のドアにもたれかかるように倒れかけ、そしてしゃがみこむ真悠子。
っしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーっっ!!!
「は、ぁぁぁぁあああぁあぁっ…………!!」
噴き出す水流が今までのおちびりとは比べ物にならない激しさで床に解き放たれる。
我慢の限界まで耐えて。下着を濡らしながら、電車で女の子のプライドを捨てても、
それでも真悠子は間に合わなかった。
しょわわわわわーーーーーーーーーー。
全然止まらないおしっこ。
そしてドンドン拡大していく水たまり。
周りから見たら悲惨。
だけど真悠子は恍惚な表情を浮かべながら今人生で最大の快感を感じていた。
「あっあっああぁ。ずっと我慢してたからきもちいいいい。」
しょーーーーーぽたぽたぽたぽた。
ようやく長いおしっこが終わった。
しかし、真悠子の幸せは長くは続かなかった。
残酷な現実はすぐにやってくる。
「ガチャ」個室のロックが解除される。
びしょびしょのスカートと下着、隠しようのない水たまり、そしてつい先ほどまで出してしまっていた
激しい水音と我慢の限界を感じさせる言葉の数々。
中の人には何が起きたか当然わかっただろう。
ふと見上げると驚きと呆れたような表情の女性が真悠子を見下ろしていた。