小説

音消しという文化

※これは海鳥の創作した作品ではありません。

「音消し?」
「うん、音消し。かおりちゃん、恥ずかしくないの?」
面食らうかおりに、貴子は怪訝そうに尋ねる。

高校生になってもうすぐ半年の二人。
貴子が、トイレの小のときの「あの音」を恥ずかしいと思い始めたのは、半年ほど前からだ。

「ふうん、水を流しながらするんだ」
「そう。もし水が流れ終わってもまだ済んでなかったら、もう一回流して」

でも、この高校の一年生用女子トイレでは誰も、「音消し」していない。
貴子は決意した。そんなの、女として恥ずかしすぎる。みんなに「音消し」させなきゃ。
それで、まずはトイレ仲間のかおりに、「音消し」の方法と必要性を伝授しているのである。

「そんなことして、何がいいの?」
「男子の奴ら、『あの音』聞いてるんだって。嫌でしょ」
「……確かに嫌かもね」

校舎の女子トイレは当然ながら全部水洗になっているものの、男子トイレと隣りあわせで、
しかも男女の仕切りは天井まで届いていない、ついたてにすぎない。
だから、男子に「あの音」が聞こえている可能性は極めて高い。
貴子にとって、「音消し」伝授は緊急の課題なのである。

「じゃあさ、体育館のボットン便所に行く時はどうするの?」
「あんなとこ行っちゃ駄目!聞かれるに決まってるんだから」

そんな苦労をするくせに、制服のスカートをすれすれまで短くするのはどういう了見だと
小一時間問い詰めてみたいところではある。
ともかく、貴子は一生懸命「布教」した。

その甲斐あって、かおりを筆頭に、貴子への賛同者が増えていき、
一月とたたないうちに、すべての女子生徒がすべての水洗トイレで「音消し」するようになった。
そして、体育館の汲み取り式トイレに入る女子生徒はいなくなった。

彼女達は、体育館で尿意を催したときも、我慢強く水洗トイレを目指した。
着いた先のトイレが並んでいても根気よく順番を待った。
ブルマやパンティーを脱ぎ終わっても、水洗レバーを押して水が流れ始めるまで、
括約筋をぎゅっと締め付けていた。

そんなある日、事故は起こった。

1時間目の授業が終わってトイレを目指したかおりの耳に、
悪夢の始まりを告げる校内放送が飛び込んできた。
「水道菅が破裂しました。校内では今タンクに溜まっている水しか使えません。
 バケツにプールの水を入れて各トイレに置きましたので、それで流してください。
 手洗いの水も極力節約してください……」

「トイレ、早く行こ」
貴子はかおりに急かすように薦めたが、かおりはまだよくわかっていない。
「えー、あたしあんまりトイレ行きたくない」
じれったそうに、貴子は説明する。
「今のうちにトイレに行っとかないと、水がなくなったら音消しできないでしょ!
 あの音を聞かれちゃうのよ!」
もし給水タンクに溜まっている水がなくなってしまったら、音消しなんか出来ない。
貴子は、今のうちにトイレでバケツの水を使わずにいつものように「音消し」して用を足し、
水道が回復するまでトイレに行かずに済ませたいのである。
まだ事態の飲み込めないかおりを引っ張るように、貴子はトイレに急いだ。

しかし。
同じことを考えていたのは貴子だけではなかった。
どの個室の前にも5、6人の女子が並び、談笑しながらおとなしく順番を待っている。
何故なら、今後のことを考えて「念のため」にとトイレに来ただけだからだ。
「うわ、すっごい並んでる、どうしたのかな」
並んでいるのが、自分が広めた「音消し教」の信者だと気づいていない貴子は、
ぶつぶつ文句を言いながら個室の一つに出来た列に並んだ。
かおりもその隣に並んだ。まあトイレに行っておいて損はないだろう。

時々個室のドアが開くと、次の娘が入り、数秒してから音消し。
たくさん並んでいる以外は、ごくふつうのトイレだった。
しかし、超ミニプリーツスカートとパンティーだけの女子高生にしては、用を足す時間が遅すぎる。
水の流れが弱まっているからなのだ。
そして、お約束のようだが、次が貴子とかおりの番だというときにチャイムが鳴り、
担当の女性教師が「授業ですよ、戻りなさい」と云いに来た。
さすがに、それに抗弁するほどの尿意もない二人は、教室に戻った。
「次の時間に行こう」くらいの軽い気持ちで。

2時間目の間、より一層尿意が高まった貴子は、授業が終わると同時に、かおりを連れてトイレに向かった。
が、今度はより長い列ができている。各個室に10人近くいるだろうか。
「念のため」に来ただけではない、緊急を要する娘も何人かいて、足踏みを繰り返している。
貴子もその一人だった。まっすぐに立っているのが、ちょっと辛い。
「着替えた後にするよ」貴子は諦めて列を離れた。かおりも続いた。
次の3時間目から、昼休みを挟んで6時間目までは体育祭の予行演習だ。
貴子らは体育館トイレの横の更衣室で着替えることになっている。

スカートを穿いたままブルマーを穿き、セットする動作は、
トイレが終わった後パンティーをたくし上げる動作に似ている。
いらぬことを考えてより尿意をつのらせてしまった貴子は、かおりを連れて体育館トイレに向かった。しかし。
「音、聞かれちゃうよ!いいの?」
注意を促したのはかおりの方であった。
「……そうね」
貴子は、「あの音」に構っていられないほど漏れそうだったのだが、かおりに制止されては強くいえない。
「音消し」を普及させたのは自分なのだから。
体育館トイレには誰も入っていかない様子であるし。

校舎のトイレは、ミニスカとブルマーの女子高生が数十人、立っているのも大変なほどの混雑だ。
前のほうでドアを閉める音はいつもと比較にならぬほど荒々しく大きい。
「あたしが先よ」「だめ、あたし漏れそうだもん」などと、冗談交じりの言い争いも聞こえる。
そんな混雑したトイレも、チャイムと女性体育教師の声により、やがてがらんどうになってしまった。

「だめだ~、流れないよ~」
3時間目が終わった後のトイレは、完全に水が出なくなってしまったのだ。
運良く列の先頭をゲットした貴子も、諦めて出てくるしかなかった。
個室に入ったかと思うと困りきった表情で出てくるという光景が、あちこちの女子トイレで見られた。
いつもは体操着のシャツを長く外に出して、ブルマーの上から形がまるわかりの尻を隠している彼女達だが、
腰をかがめて歩いたり走ったり、飛んだりはねたりして尿意をまぎらわせているので、
シャツがずり上がって尻の形がまるわかりなのだ。

4時間目、女子は誰もが漏れそうになりながらも、奇跡的に誰も漏らさずに済み、昼休みとなった。
そして貴子を含め何人もが脱兎のごとくトイレに駆け込んだ。
しかし、先頭の娘が「出ないよ~」と泣きそうな顔で出てきたのを聞いて、
貴子は絶望感を露にしながら教室に戻った。

すると、かおりが貴子に告げる。
「たかちゃん!ちょっと、何恥ずかしい格好してんのよ」
「……!!」
貴子は、無意識に、ブルマーの上から股間を握り締めてしまっていたのである。
中学校時代のある日、満員のトイレの前で両手で押さえながら待っているところを
男子生徒に目撃されて以来、もう絶対押さえないと決意した貴子が、
約三年ぶりに、押さえてしまったのだ。
貴子にとって、これは「あの音」を聞かれるのと同じくらいの屈辱である。

「たかちゃん、いい加減トイレ行ったほうがいいんじゃないの?」
かおりの親切な忠告にも、一度トイレを断っている貴子は頑として首を振る。
「こっちのほうがましよ、音聞かれるよりは」
そう言うと、貴子は一度離した両手を再度、ブルマーの最も恥ずかしい部分に押し当てた。

それは貴子だけではなかった。
何十人、いや百人以上の女子校生が、ブルマーの上から股間を握り締めながら、
校舎やグラウンドをうろうろしていた。
少しではあるが尿意を感じていたかおりも、また押さえてしまっていたのだ。
じっとしていられない女子生徒が、ブルマーの前を押さえたまま、がにまたで廊下を走り回っている。
黒くて長い髪のお嬢さんタイプの女の子が、腰をセクシーにくねらせながら
両手に力を込めている。
しゃがみこんで、ブルマーの前をかかとで押さえている娘もいる。
ブルマーからパンティーがはみ出しているのに直そうともしない娘もいる。
直すために手を離したら出てしまいそうなのだろう。
「トイレ!トイレ!」「我慢できないよ~」「漏れそう!」「おしっこ行きたい……」
女子ばかり、尿意を訴える声が校舎じゅうに充満している。

地獄のような数十分間が過ぎ、5時間目の予行演習再開まであと20分ほどとなったときである。
すべての女子にとって待望の校内放送が流れた。
「水が流れるようになりました」
その瞬間、校舎内の各女子トイレに、数十人ずつのブルマー姿の女子生徒が、
股間をしっかりと握り締めたまま、全速力で押し寄せてきた。

貴子とかおりが女子トイレに着いたときは、トイレの通路は満員電車並みで、
立っているのがやっとの隙間しかなかった。
顔を真っ赤にして身をかがめ、足踏みを繰り返し、ブルマーの前をきつく押さえつけ、
時折「あん、あん」というため息混じりに「早く、早く」「漏れちゃう、漏れちゃう」などと声を発する
数十人の女子生徒を、二人は何とか頭で掻き分けるようにして、真ん中ほどの列の最後尾に並んだ。

もはや列は個室に対応していないし、どこが最後尾でどこが先頭かも見分けがつかない。
個室の前に団子になって順番を待ち、空くのを待ち構えている娘が3人も4人もいるのである。
その後ろに、個室の前のポジションをゲットすべく待ち構えている娘が一つの個室に対して5、6人いる。
そのさらに後ろにも、また、トイレに入りきれなかった娘がトイレの入り口に群がっている。

個室が開くと大騒動だ。
後ろに並んでいた3人以上の女子が上半身からのしかかるようにしてなだれ込もうとする。
が、個室をゲットできるのは1人だけ。
ゲットするためには、いかに自分が漏れそうかということを訴えなければならないので、
押さえる力はますます強く、声はますます高くなる。

みな、我慢するために体を揺さぶるふりをして、一つでも前に進もうともがいている。
だから、肩や肘が胸に当たる。足をゆさゆさとゆすぶると膝が当たったり、足を踏んだりしてしまう。
そのたびに括約筋が緩んでも漏らさないように、懸命に押さえていなければならない。

個室の中の人も大変だ。
ここまで我慢したのに、漏れそうなあまりに音消しするのを忘れては、今までの努力が台無しになる。
下手をすると、ブルマーとパンティーを脱いでいる最中に放尿がはじまり、汚してしまうのだ。
済んだ後も直ちに拭いて、パンティーとブルマーを穿いて出ないと、ノックと罵声の嵐に急かされる。
(急いで穿くから、午後には多くの女子が「ハミパン」していたのは言うまでもない。)

しかし、その喧騒も、長くは続かなかった。
「うっ、ううっ……」
という涙声とともに、貴子とかおりの強く押さえつけた中指の奥から、透明な尿液が噴き出してきた。
彼女達が前かがみになっているために後ろに突き出された尻のブルマーの色が、
みるみるうちに濃い色に変わり、その範囲がどんどん広がっていった。
そして、それらは、トイレの水洗音よりもずっと大きい音を立てて、タイル時の床を叩きつけた。

その音が響き渡った瞬間、すべての女子生徒がプライドを捨てた。
ある者は禁を破って体育館トイレに急行した。別のある者は果敢にも男子トイレに飛び込んだ。
校庭の植木の陰で用を足した者もいた。

個室の中の人を除いて誰もいなくなった女子トイレ。
貴子とかおりの放尿は止まらず、タイルを伝って次々と排水口に流れ込んでいく。
その音と嗚咽だけが、むなしく響いている。
最大にして最悪の、「あの音」を聞かれてしまった。

「音消し教」は、こうして崩壊した。

翌日。
「おしっこ漏れそー!!!」
と叫びながら貴子が女子トイレに駆け込むのを待っていたかのように、
数人の男子が男子トイレの中で、聞き耳を立てる。
「ばたーん!!!」
という衝撃音とともに個室の扉が閉められ、何の遠慮もない衣擦れの音が響いたかと思うと、
「ちぃ~~~~~~ちょろちょろちょろちょろ……」
という、豪快だけどキュートな音が聞こえる。
男子の一人が
「今日のしっこ、かわいい!!」
とはやし立てると、貴子は下半身をあらわにしてしゃがんだまま、壁の向こうの男子に返事する。
「改心の出来よ」

これも一つの校風として、後輩達に受け継がれていくことであろう。

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